Ingressと路上観察学

Ingress読み物
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はじめに:入門編

 まず、そもそも「路上観察学」とは何か?
 “学”と冠していても、その名称自体が既にジョークだったりするのですが、故・赤瀬川原平氏らを発起とする、
「世間が存在を意識しなかった路上や街角の物を対象とし、学問的に調査・発表する」
 という妙なジャンルの“学問”です。
 マンホールの蓋、街角の張り紙など、そちらについての詳細は『路上觀察學入門』をご参照くださいませ。

 これらが提唱・出版された1980年代でこそ“オタク的”な分野であった路上観察ですが、最近ではゴールデンタイムのテレビ番組でも「ブラタモリ」や「モヤモヤさまぁ~ず」、「ナニコレ珍百景」だったりも、比較的息の長いシリーズとなっています。
「観光地でもなんでもない街角をブラブラ歩いて、その魅力を再発見する」
 というある種スローな意識は、何かとコンテンツの消費が速い今日においては受け入れ易いものとなっているかもしれません。

 また、“路上観察”で対象となるジャンルのうち、「不動産に付属し、まるで展示するかのように美しく保存されている無用の長物」と定義される「トマソン」。
 意図されて造られた芸術作品とは異なり、「存在がまるで芸術のようでありながら、その役にたたなさ・非実用において芸術よりももっと芸術らしい物」であり、「超芸術」とも呼ばれます。
 これについては川島さん​​もTwitterにて言及しておられます。

 Ingressとは基本的に道路上を歩くゲーム。
 それこそマンホールだったり、街角にあるありふれたヘンな看板や謎のオブジェ、そういったものまでポータルとなっている場所があります。
 ポータルがある以上は、「これは良い」と思って申請した人もいるはずです。
 元々Ingressと路上観察学は非常に親和性の高いものであり、「ネオ路上観察学」とも言えるのではないでしょうか。

実践編

 対象は何処だって良いのですが、今回はこのコラムを書くにあたって絶対にやっておきたかったミッション「岩国駅東側 楽しい公園散歩」の舞台となる山口県岩国市元町の街角を例に挙げます。

2010年代の元町(「Google Maps・Google Earth」より引用・加工して作成)
1970年代の元町(国土地理院 地図・空中写真航空写真より引用・加工して作成)

 このミッションのターゲットポータルともなっている「たこ公園」。ものすごく細長い形をしています(画像1枚目および2枚目A地点参照)。

※2台並んだ自転車は、自分とテンコの私物です

 完全に藪と化していたので見逃していましたが、どうやら東側の2ブロック分も公園という扱いのようです。
 因みに周りにも、置いてある遊具に合わせて「かめ公園」「キリン公園」「うさぎ公園」などのポータルがあります。フザケた名前だな流石某ターボさんだと思ったら本当にそんな名前の公園でした。大変失礼しました。

 さて、この岩国駅東側は、かつて帝人岩国工場の専用線が走っておりました。その跡は上記の空中写真にて、赤ラインで明示しています。廃止時期は1960~70年代初頭とみられますが、手元に資料がなく不明です。もしご存知の方がいらっしゃいましたら教えてくださいませ。

 公園となっているのはその廃線跡を利用したもの……というのがセオリーですが実はそうではなく、廃線跡は画像2枚目左側にある住宅の並びだったりします(国土地理院が1975年に撮影)。
 更に時代を遡って1962年の空中写真でも、既にこの公園がウナギの寝床としてしっかりと確立されていることがわかります。遊具と名前はタコですが。

 B地点(ポータルで言うと「桂町街区公園」)は廃線跡をそのまま利用した公園ですね。緩やかなカーブがなんともそれらしい。

考察編

 路上観察学がジョークな学問とは言え、ジョークだからこそ大真面目に考察します。
「何もこんな細長い形にしてまで公園を作る必要ないじゃないか」
 という感想を抱きがちですが、戦災復興から高度成長時代へと移り変わりつつあった1950~60年代、工業都市においては石炭煤塵による空気汚染や公害が大きな問題となっていました。

 同じ山口県内では、宇部市が1949年からその対策に腰を上げ、産官学民の連携による都市緑化や条例の制定などを、全国に先駆けて取り組み出していました。
 この岩国市も空襲で壊滅的な被害を受け、復興事業で区画整理が行われた場所。元町も例外ではありません。
 奇しくも時期が重なり、少しでも緑化する為に空いたスペースに無理矢理公園をねじ込んだ結果、現代では何だかミョーなスポットが出来上がった。
 激動の昭和をある意味で象徴する公園となって……というのが自分の予想ですが、実際の所よくわかりません!
 岩国の戦後の都市計画について詳しい人カモン!

おわりに

 冒頭の節でも書いたものの繰り返しになりますが、Ingressと路上観察は非常に親和性の高いものであると言えます。
 その中には、「ヘンなモノがあるな」と意識はしていたものの、それが“路上観察”という一ジャンルとして確立されているものだと意識していなかった方も、特にIngressエージェントの方には多いと思います。
 いま一度スキャナから顔を上げて、或いは更に下を覗いてみてはいかがでしょうか。

コメント

  1. イースト より:

    他の記事も含め内容は元より纏め方や表現など凄くタメになる記事でした!今後の記事も楽しみにしております。

    • Otoha Mikliya より:

      出来たばかりのBlogへのご来訪、ありがとうございます!
      励みになります~!

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